マダミスジェン

あらすじ

豪雪に閉ざされた山荘で、ベストセラー作家・桐生宗一が密室で死亡した。残されたのは長年の友人である作家と、彼を支え続けた担当編集者の二人だけ。互いを疑い、真相を語り合う一夜が始まる。あなたは相手の言葉のどこに嘘を見抜けるか。

舞台:舞台は長野県の山奥にある『雪嶺荘』。鉄道も道路も雪で断たれ、外界と完全に切り離された木造二階建ての別荘である。建物は故・桐生宗一が三十年前に購入し、執筆の缶詰部屋として愛用してきた。一階にはリビング・キッチン・書斎、二階には三つの寝室と書庫がある。電話線は雪で切れ、携帯電話は圏外、唯一の通信手段は短波ラジオのみ。事件は十二月の三日目、夜更けに発生した。窓の外では吹雪が荒れ狂い、暖炉の薪がはぜる音だけが静寂を破る。書斎の机には、桐生が遺した未完の原稿『最後の証言』が無造作に積まれている。プレイ人数:2所要時間:90

被害者

桐生宗一

六十七歳。三十年前にデビューし、社会派ミステリーの旗手として一時代を築いたベストセラー作家。代表作『沈黙の檻』『鉄路の証言』など。だがここ十年は新作を出しておらず、半ば伝説の人物として扱われていた。実は若い頃に新人賞を獲った『沈黙の檻』は、当時のお抱え編集者だった人物が書いた草稿を元にしている――という疑惑を、近しい関係者の間でずっと囁かれてきた。最近、自伝的告白小説『最後の証言』を執筆中であり、その中で過去の盗作疑惑、ある女性編集者への裏切り、そして文壇の闇を全て暴露するつもりだと公言していた。

登場人物

藤代涼介

42歳・小説家

穏やかで紳士的、言葉を選んで話す。だが内心は強い競争心と劣等感を抱えており、追い詰められると饒舌になる癖がある。

佐倉真理

48歳・文芸編集者犯人

理知的で冷静、長年編集者として作家を支えてきた包容力がある。だが芯は強く、自分の信念のためなら手段を選ばない一面も持つ。

証拠品

内側から下ろされた閂

書斎の扉

書斎の扉の内側に設置された古い鉄製の閂。事件発見時、確かに内側から下ろされていた。これにより書斎は密室となっていた。だが閂自体は単純な構造で、外部からの細工は不可能。つまり犯人は閂を下ろした後、何らかの方法で書斎から脱出したことになる。

書斎の窓の雪

書斎の窓と窓枠

書斎の窓の外側、窓枠の下部に雪が乱れた跡がある。さらに窓の鍵は内側から閉まっているが、よく見ると窓枠の塗装が一部剥がれており、最近窓が開閉された形跡がある。窓の外には屋根の庇が張り出しており、隣室の窓まで一メートルほどの距離で繋がっている。

佐倉の自室の窓

二階・佐倉の自室の窓

佐倉真理の自室の窓は、調べてみるとわずかに開いており、サッシのレール部分に新しい雪と水滴の跡が残っている。佐倉は『換気のため少し開けていただけ』と説明するが、窓枠には誰かが内側から手をかけた指の跡がついている。書斎の窓と屋根伝いに繋がっており、距離は約一メートル。

暖炉の燃え残り

一階リビングの暖炉

一階リビングの暖炉の灰の中に、完全に燃え尽きずに残った原稿用紙の切れ端がある。判読できる部分には『沈黙の檻』『真の作者』『佐』という文字が辛うじて読める。事件当夜、暖炉を使用したのは佐倉だけだと藤代は記憶している。

『最後の証言』第七章の欠落

書斎の机

桐生の机に残された未完原稿『最後の証言』。全章番号通りに揃っているが、第七章の最初の五ページが綺麗に抜き取られている。残ったページから推測すると、第七章は『沈黙の檻』と若手作家のデビュー作の真の経緯を告白する内容だったと思われる。

果物ナイフと書斎の指紋

書斎・遺体

凶器は書斎の机にあった果物ナイフ。普段から桐生が原稿の紙束を切るのに使っていたもの。柄の部分は綺麗に拭き取られているが、刃の根元に微かに繊維が残っており、それは佐倉が今夜着ていたカーディガンの繊維と一致する。

桐生の腕時計

書斎・遺体の左手首

桐生は争った際に時計を強く打ち付けたらしく、腕時計が十一時十七分で止まっている。これにより犯行時刻が午後十一時十五分前後と特定できる。佐倉のアリバイ(『十一時頃に一階に下りた』)と矛盾する時刻である。

二人分のティーカップ

書斎の机

書斎の机には二人分のティーカップが置かれている。一つは桐生の物、もう一つは口紅の跡が薄く残っている。佐倉は普段から薄い色の口紅を使用しており、彼女が事件直前まで書斎にいた可能性を示唆する。

タイムライン

  1. 桐生が藤代と佐倉に短波ラジオ経由で連絡し、『大事な話がある。雪嶺荘に来てほしい』と招集する。

  2. 藤代と佐倉が別々のルートで雪嶺荘に到着。三人で夕食を共にする。

  3. 藤代が桐生の留守中に書斎へ侵入し、『最後の証言』第七章を盗み読み、自分のデビュー作の真相を知って衝撃を受ける。

  4. 三人で夕食。桐生が『今夜中に皆に告白しなければならないことがある』と意味深に呟く。

  5. 桐生が二階の書斎に戻り、執筆作業を再開する。藤代は一階リビングへ、佐倉は二階自室へ。

  6. 佐倉が書斎を訪れ、桐生と『最後の証言』の内容について話し合いを始める。お茶を入れ、二人分のティーカップが置かれる。

  7. 藤代が水を飲みに台所へ立つ。その際、二階から微かに声が聞こえることに気づくが、特に気に留めない。

  8. 書斎で桐生と佐倉の口論が激化。佐倉が『あなたが書くなら私も全部書きます』と叫ぶ。藤代が偶然二階の廊下を通り、これを聞く。

  9. 佐倉が机上の果物ナイフを取り、桐生の喉を刺す。桐生は時計を机に打ち付けながら息絶え、時計は十一時十七分で止まる。

  10. 佐倉が扉の閂を内側から下ろし、書斎の窓を開け、雪の屋根伝いに隣の自室の窓へ移動。窓を閉じ、自室に戻る。

  11. 佐倉が一階リビングに下り、暖炉で『最後の証言』第七章の数ページを密かに燃やす。

  12. リビングで佐倉と藤代が顔を合わせる。佐倉は『桐生先生に呼ばれて様子を見に行こう』と提案する。

  13. 二人で二階の書斎へ。扉が開かないため鉄棒で閂をこじ開け、遺体を発見する。

  14. 短波ラジオで麓の駐在所に通報を試みるが、吹雪のため警察の到着は朝になると判明。二人だけで一夜を過ごすことになる。

  15. 暖炉の前で二人が向き合い、互いに事件の真相を語り合うことを決意する。長い夜が始まる。

GMノート

本シナリオは二人プレイ専用の濃密な対話型マーダーミステリーです。GMはプレイヤー二人の間に座り、両者の発言を注意深く観察してください。重要なのは『どちらが犯人か』という結論よりも、二人のキャラクターの間に流れる三十年来の信頼と、その背後に隠された嘘の重みを表現することです。佐倉プレイヤーには『冷静さの中にある絶望』を、藤代プレイヤーには『友人を守りたい気持ちと自己保身の葛藤』を演じてもらえるよう導いてください。フェーズ1では二人を友好的に振る舞わせ、フェーズ2の調査で物的証拠を一つずつ提示する際は『これは何を意味しますか』と問いかけ、プレイヤー自身に推理させてください。フェーズ3の相互尋問が本シナリオの山場です。GMは『相手に三つ質問してください』『その答えに納得できますか』と促し、二人の対話を引き出します。重要な分岐点として、藤代プレイヤーが『書斎の盗み読み』を告白するかどうか、佐倉プレイヤーが最後まで嘘を貫くか自白するかがあります。どちらの展開でも物語として成立するよう、解決編の朗読は柔軟に対応してください。もし藤代プレイヤーが真相に到達した場合は『あなたは佐倉さんを警察に突き出しますか、それとも見逃しますか』という究極の問いを投げかけ、ロールプレイの余韻で締めくくると感動的なフィナーレになります。所要時間は議論の盛り上がり次第で90分から120分。プレイヤーが詰まった場合はNPCとして『暖炉の灰に何か残っていませんか』『窓の外を見てみては』とヒントを出してください。最後に重要なのは、このシナリオの真のテーマが『作家とは何か、創作の所有権とは何か』という問いであることです。解決後にプレイヤーと感想を語り合う時間を必ず設けてください。